1.目的 本研究は、出産直後から低タンパク食で飼育した母親ラットの母乳でその新生児を授乳し、乳仔および母親の各種筋組織の微細構造に及ぼす影響について経日的に研究することで、タンパク栄養失調の本態を解明し、その予防的対策についての手がかりを得ることを目的とした。 2.材料と方法 AIN-93Gの組成に従い、低タンパク食(LP食:5%casein)および対照食(C食:20%casein)を作製後、出産直後の母親ラットをそれぞれの飼料で飼育した。母親ラットの出産した乳仔はすべて5匹に統一し、乳仔はそれぞれの母親がその母乳を授乳した。出産日、授乳開始5、10、15、20日後の母親およびその乳仔の各種筋組織の一部を切除し、型のごとく試料を作製し、母親の筋組織を光学および透過型電子顕微鏡にて、微細構造レベルにて検索を行った。また、各時期の血液、骨格筋ホモジネートおよび母親の母乳の生化学的検査(血中アルブミン濃度、大胸筋グルタチオン濃度、母乳中タンパク質および脂肪含有量)を行った。 3.結果と考察 C食群の乳仔ラットの体重は、授乳開始から順調に増加したが、LP食群では5日以降、低下傾向を示し、授乳終了時では、C食群の約半分であった。LP群の血中アルブミン濃度も、授乳開始5日以降、低下し始め、低タンパク血症を呈した。また、LP食群の大胸筋グルタチオン濃度は、C食群に比較すると、10日以降、若干低値であったが、大きな差は認められなかった。LP食群の10日以降の大胸筋細胞において、筋原線維のZラインストリーミングを中心とした傷害が観察されたが、その傷害の程度は、非常に散発的であり、かつ、限局したものであった。一方、母親ラットの体重は、授乳終了まで、両群ともに差はなく、血中アルブミン濃度も、正常範囲内であった。また、母乳中タンパク質および脂肪含有量は、いずれの時期においても、両群間に大きな差は認められなかった。以上のことから、低タンパク栄養状態の母親からの母乳で飼育された乳仔は、その母乳組成がC食群とほぼ同じであったにもかかわらず、その母乳の量的減少による発育不良のために、体重減少と血中アルブミン濃度の低下傾向がみられたものと思われる。その結果、大胸筋細胞において、軽度の形態学的所見が誘起されたものと考えられる。ただ、その傷害の程度が軽度であったのは、低タンパク栄養状態の母乳で飼育されたにもかかわらず、授乳発育途上という環境の中で、乳成分組成がほとんどC群と同じで、かつ、抗酸化作用のあるグルタチオンが大きく低下しなかったことと関連していることが示唆された。
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