1.目的 本研究は、出産直後から低タンパク食で飼育した母親ラットの母乳でその新生児を授乳し、乳仔および母親の筋組織の微細構造に及ぼす影響について、経日的に研究することで、タンパク栄養失調の本態を解明し、その予防的対策についての手がかりを得ることを目的とした。 2.材料と方法 AIN-93Gの組成に従い、低タンパク食(LP食:カゼイン5%)および対照食(C食:カゼイン20%)を作製し、出産直後の母親ラットを20日間それぞれの飼料にて飼育した。新生児ラットは出生後、すべて5匹に統一し、それぞれの母親の母乳を授乳した。離乳後、新生児ラットをすべて対照食で4週間飼育し飼育開始から1週毎の大胸筋および肝臓の一部を切除、型のごとく、試料を作製し、形態学的に検索を行った。また、血中アルブミン濃度および肝トリグリセリド量を測定した。 3.結果と考察 飼料飼育開始後のラットの体重は、LP食群、C食群ともに順調に増加したが、飼育終了時の体重は、C食群がLP食群を上回った。血中アルブミン濃度および肝トリグリセリド量は、飼育開始1週から両群間の差はほとんどなかった。LP食群の肝臓は、離乳時には典型的脂肪肝がみられたが、1週で急激に消失し、2週以降、両群間に違いは認められなかった。しかし大胸筋細胞では、離乳時にみられた筋原線維の散発的傷害は、飼育開始から、傷害の程度および頻度は徐々に軽微になるものの、いずれの週においても観察された。以上のことから、授乳中に低タンパク栄養状態に陥った場合、離乳後の飼料を対照食に変更することで、タンパク質摂取が増加し、タンパク栄養失調の典型である低アルブミン血症および脂肪肝は改善されることが明らかとなった。また、低タンパク栄養による脂肪肝も、血中アルブミン濃度の上昇により、速やかに改善されるものと思われた。しかし、授乳中にみられた体重差が、飼料飼育4週後に残存したのは、授乳中の母乳の成分組成は両群間に差はなかったものの、分泌量が減少した影響が未だ消えなかったためであろうと思われた。また、低タンパク栄養により誘起された筋傷害は、飼料変更後にも消失しなかったことから、血中アルブミン濃度が上昇しても、筋傷害が完全に回復するまでには、更なる期間を要すと思われ、飼育期間の延長および変更する飼料組成などについても、検討が必要である。
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