本研究の目的は、生前に海水が肺から血中に侵入したことを証明する検査方法を確立することであり、海洋細菌をその指標としている。本年度は血液から簡便に海洋細菌の検出が可能な選択培地について検討をおこなった。 先ず、溺水を吸引した血液を想定して、健常者の血液1.6mlに、海水、河川水、水道水、泥水を0.4ml添加後、25℃で24時間インキュベートした(計35例)。次いで、これらの血液を順次希釈したものを試料とし、三種の培地(Todd Hewitt Agar培地、Marine Agar 2216培地、TCBS培地)を用いて、NaCl濃度、pH等を変えて培養を行った。その結果、Todd Hewitt Agar培地及びMarine Agar 2216培地では、4%NaCl、pH8.0において、海水を添加した血液試料を10^6倍希釈しても細菌の増殖がみられた(但し、コロニーの大きさといった点を考慮するとTodd Hewitt Agar培地の方が優れていた)。またその中には発光する細菌も認めた。続いて、細菌の増殖を認めた平板についてChytochrome oxidase testを行ったところ、すべて陽性であった。他方、河川水・水道水・泥水では、O-10^2倍希釈まで細菌が増殖したが、いずれもChytochrome oxidase testは陰性であり、発光する細菌も観察されなかった。また、Vibrio属細菌の選択培地として知られるTCBS培地では、海水を添加した血液試料でのみ細菌が増殖し、ごく一部の細菌に弱い発光を認めた。これまでの実験結果から、Todd Hewitt Agar培地のNaCl濃度を4%とし、ph8.0、培養温度25℃のすることで、海洋細菌を選択的に検出できることが示されている。 今後は、今回検討した条件を用いて実際に海水域での溺死体から海洋細菌の検出を試み、海洋細菌検査が溺死診断の一助になり得るかについて検討したい。
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