研究概要 |
本研究は背振村および女川町の健常高齢者を対象にした研究であり、特に頭部MRIや頚部エコー検査を行うことで、血管病変のリスクファクターや認知機能との関連を調査している。本年度は脳内血管病変と認知機能との関連について、平成13年から15年度にかけて女川町の満65歳の脳健診受診者172人を対象に調査した。本来脳内病変の検索に行う頭部MRIでしばしば慢性副鼻腔炎が見出される。慢性副鼻腔炎では鼻閉感や鼻水を主症状とするが、しばしば集中力の低下などを通じて高齢者の認知機能に少なからず影響する可能性があり、その他の脳内病変とともに検索した。頭部MRI検査は花粉症のシーズンではない6月から8月にかけて行った。MRI上、副鼻腔にT2強調画像で高輝度を有する液状物を副鼻腔炎の指標とし、その他脳梗塞の有無、脳内白質病変の程度を同時に評価した。認知機能検査にはMMSE(Mini-Mental State Examination)を用いた。慢性副鼻腔炎は検査を施行しえた170人中、32人(18.8%)に認められた。両者におけるMMSEの得点はそれぞれ27.5±1.8点(副鼻腔炎あり)と27.9.±2.0(副鼻腔炎なし)で統計学上の差異はみとめられなかった(P=0.28)。しかしながら、満点(30点)の比率をみてみると、副鼻腔炎群が9.4%に対して副鼻腔炎なし群では26.%と両者で差異が認められた(P=0.04)。さらにこの副鼻腔炎の有無は性別・教育歴で補正してもMMSEで満点が取れるか否かに関してオッズ比3.9(95%信頼区間1.1-13.8,P=0.04)で、脳梗塞の有無(オッズ比1.9,95%信頼区間0.7-5.2,P=0.18)と白質病変の有無(オッズ比2.3,95%信頼区間1.1-4.8,P=0.03)から独立した危険因子であった。この慢性副鼻腔炎が高齢者の認知機能に与える影響は軽微ではあるが、抗アレルギー薬やマクロライド系抗生物質の長期投与などで制御可能な病態であり、高齢者の認知機能低下因子の1つとして注目してよい病態と考えられた。この研究はMatsui T, Arai H, Nakajo M, Yoshida Y, Maruyama M, Ebihara S, Sasaki H. Role of chronic sinusitis in cognitive functioning in the elderly.J Am Geriatr Soc 2003;51:1818-9.論文誌上で発表した。
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