研究概要 |
本研究は、NOの唯一の生体内基質であるL-アルギニン低下に伴う血中NO低下状態にあると思われるリジン尿性蛋白不耐症(LPI,lysinuric protein intolerance)患者において、血中NOと門脈循環動態を検討し、血中NOの門脈循環に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 本疾患の原因遺伝子であるSLC7A7遺伝子について、同意を得て変異の解析を行い、診断が確定しているLPI患者7人を対象とし、健常人8人をコントロールとした。血中NOの測定は間接的定量法を用いて行った。門脈循環動態は、超音波装置を用いて測定した門脈径と門脈血流速度をもとに、門脈血流量を算出することにより検討した。さらに、L-アルギニンの経静脈投与やNOドナーである硝酸イソソルビドの経皮投与後にも血中NOおよび門脈循環動態を測定し、投与前と比較した。 LPI患者では、全例で血漿アルギニン濃度は低値であり(38.4±8.8nmol/mL,mean±SD)、また血中NOは健常人と比べ有意に低下していた(67.3±8.9vs.117.6±12.2μmol/L)。腹部超音波検査では、慢性肝疾患を示唆する所見は認められなかった。また、門脈血流量と門脈径は、コントロールと比べ有意に低下していた(411.3±173.1vs.846.0±217.6mL/min;6.1±1.4vs.8.7±1.4mm)。L-アルギニンあるいは硝酸イソソルビドの投与後、LPI患者の血中NOは99.5±8.2μmol/Lに有意に増加した。またこれらの投与により、門脈血流量は903.5±275.2mL/minに、門脈径も7.5±1.3mmに有意な増加が認められた。 平成15年度の研究からは、LPI患者においてL-アルギニン欠乏によるNO産生低下による門脈循環障害が認められた。また、血中NOを増加させることにより、これら門脈循環障害の改善が認められた。平成16年度は更に動物モデルにより、詳細な機序の解析を予定している。
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