研究概要 |
【背景・目的】RNAiは二重鎖RNAによって同じ配列をもつ遺伝子の発現が特異的に抑制される現象である。small interfering RNA(siRNA)を細胞に導入することにより特異的に肝炎ウイルス増殖を抑制制御可能と考えられ、新たな薬剤ターゲットの発見、薬剤開発に結びつく可能性がある。まずA型肝炎ウイルス(HAV)replicon systemを用いてsiRNAの抗ウイルス効果を検討した。またC型肝炎ウイルス(HCV)replicon systemを用いて各種薬剤の抗ウイルス効果を検討した。【方法】(1)HAVに対するsiRNAは2C、3A、3C、3D領域に合計6種類(2C-1、2C-2、3A-1、3C-1、3D-1、3D-2)作成した。GC contentは19.0-42.9%でありBLAST searchにてgenome遺伝子と相同性のないことを確認した。(2)ウイルス増殖抑制効果の判定にはDNA based-HAV replicon systemを使用した(Gauss-Muller V, J Gen Virol,2002)。構造蛋白質の代わりにルシフェラーゼ遺伝子をもつHAVレプリコン(pT7-18f-LUC)および100nMのsiRNAをHuh-T7細胞にCo-transfectionしウイルスの増殖をルシフェラーゼアッセイにて検討した。なお、siRNA非投与時のルシフェラーゼ値を100%とした。(3)更に増殖抑制効果のみられたsiRNAはFLAG-HAV蛋白発現ベクター(Kanda, Scand J Gastroenterol,2003)と共にHuh-7細胞に遺伝子導入しHAV蛋白発現に対する効果をWestern Blotting法を用いて検討した。(4)IFN、リバビリン等各種薬剤のHCVに対する効果を検討した。【成績】(1)48時間後のウイルス増殖抑制効果検討ではsiRNA2C-1、2C-2、3A-1、3C-1、3D-1、3D-2およびcontrol siRNA投与時にそれぞれ27、128、146、81、35、51および102%であった。一方、増殖欠損型HAVレプリコン(pT7-18f-LUCmut)の値は14%であった。(2)HAV増殖抑制のみられたsiRNA 2C-1および3D-1を50nMずつ組み合わせて投与すると17%までHAVの増殖は抑制された。(3)Western Blottingの結果ではこれらsiRNAは同様にHAV-2Cおよび3D蛋白発現をそれぞれ抑制した。また、Beta-actinおよびPKRの発現には影響を与えないことを確認した。(4)HCV NS5A PKR結合領域における塩基変異総数は薬剤投与前と比較しコントロール、インターフェロン単独、リバビリン単独および併用時でそれぞれ6、5、36および57とリバビリン使用時、特に併用群で増加していた。【結論】(1)siRNA 2C-1、3D-1、3D-2は少量でもHAV増殖を抑制した。(2)これらを組み合わせ使用することにより更なるウイルス増殖抑制効果がみられた。(3)肝炎ウイルスに対するsiRNAはIFNシグナルを活性化しないため慢性肝障害を併発するなど肝予備能低下時に使用する薬剤としては有望であることが明らかとなった。(4)C型肝炎ウイルスreplicon systemを用いて同様にsiRNAがウイルス増殖を抑制することを確認しており、今後そのメカニズムを検討する予定である。
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