研究概要 |
本研究では胃癌手術検体を用いたマイクロアレイ解析で、まず高発現の遺伝子を抽出した。このうち、ムチン蛋白であるMUC13は最近同定された1回膜貫通蛋白だが、(1)ムチンファミリー遺伝子であるMUC16が腫瘍マーカーCA125の抗原であること、(2)MUC1が抗体治療の標的としてすでに臨床試験が行われていること、などから診断・治療の標的として有望と考えて、モノクローナル抗体を多数クローン作成してさらに解析を行った。 3種類の抗体を用いて各種細胞株でMUC13蛋白の評価を行ったところ、全長の200kDa蛋白以外よりも35kDaの蛋白が最も多く存在し、切断された断片の存在が示唆され診断マーカーとしての可能性が示された。Western blottingで非癌部と比較して胃癌組織での発現亢進を蛋白レベルでも確認した。免疫組織化学解析ではMUC13は小腸、大腸で陽性を示し、正常胃粘膜では陰性だった。Tissue arrayを用いて114例の検討を行ったところ、74例(65%)の胃癌で陽性を示し、Diffuse typeに比較してIntestinal typeで有意に発現が高かった。また、Intestinal typeでは腺管構造のapical側に濃縮して認められたのに対して、Diffuse typeでは細胞全体にびまん性に分布していることが確認された。intestinal typeの前癌病変とされる腸上皮化生でも10例中9例で陽性を示した。他の腸型ムチン(MUC2,CD10)が腸上皮化生では同様に高い陽性率を示しながら、胃癌では陽性率が20-30%と低下することも明らかになり、MUC13は単なる腸分化マーカーではなく、intestinal type胃癌の発癌に関与する分子であることが示唆された。 本研究によりMUC13が胃癌の発癌、診断、治療に重要な分子であることが強く示唆された。
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