大腸癌細胞におけるFAP-1の発現の意義について検討するため以下の実験をおこなった。FAP-1を発現していない大腸癌細胞株(SW480)にリポトランスフェクション法にてFAP-1のcDNAを導入し、FAP-1を高発現した細胞を得た。得られた細胞を限外希釈法にてクローニングした結果、Fas誘導アポトーシスに感受性の極めて高いクローンを得ることができた。つまり、Fas誘導性アポトーシスのインヒビターであるFAP-1を導入した細胞が、Fas誘導アポトーシスに対する感受性が高まるという逆の現象がみられた。FAP-1によりFas誘導アポトーシスの感受性が高まるメカニズムを解析するため、Fasの表面発現、カスパーゼの活性化の状態、Bcl-2 family proteinなどのアポトーシス関連分子の発現の変化について検討した。FAP-1を導入したクローンではカスパーゼ9、カスパーゼ3の著明な活性化がみられたが、Fasの表面発現やBcl-2 family proteinの有意な変化はみられなかった。サバイバルシグナルの1つであるAktの活性化の状態にも変化はなかったが、cDNA microarrayの結果では転写因子やシグナル伝達物質の発現に有意と考えられる変化がみられた。FAP-1のもつTyrosin phosphatase活性や9つのPDZドメインによる分子間の糊づけ作用により、細胞内のサバイバルファクターのネットワークに異常が生じたためこのような現象が起こったと考えられた。大腸癌細胞におけるFAP-1の新しい作用について以上のような結果を得ることができた。今後、siRNAをもちいたさらなる検討を進めてゆく予定である。
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