肝細胞癌で発現が増加している癌抗原や他癌において報告されている癌関連抗原の細胞障害性T細胞(CTL)エピトープをもつ9-10アミノ酸からなるペプチドを合成した。次に肝細胞癌患者の末梢血リンパ球を用いてこれらのペプチドに対する免疫反応をenzyme linked immuno-spot (ELISPOT) assayとCTL assayで検討し、肝癌の免疫治療に有用と考えられるHLA-A24拘束性のCTLエピトープを同定した。具体的にはアルファフェトプロテイン(AFP)をはじめとして、14種類の癌関連抗原に対するエピトープが肝癌の免疫治療の候補となりうることを明らかにした。 さらに38人の肝癌患者においてAFP特異的CTLと腫瘍因子などの臨床所見との関連を検討し、血中のAFPレベルや肝炎ウイルスの感染とは関係なくAFP特異的CTLの誘導が可能であることを明らかにした。末梢血におけるAFP特異的CTL数の検討では、これまでに報告されている大腸癌や悪性黒色腫の患者末梢血中に存在する癌抗原特異的CTL数と同等であり、免疫原性が低いとされていた肝細胞癌においても宿主の癌に対する免疫反応が存在することを証明した。またAFP特異的CTL数はTNM分類における腫瘍因子や進行度と有意な相関を示し、癌が進行した患者においてより顕著に反応が検出されるものの、肝癌発生初期には反応は弱く、このことが肝癌の伸展に関与している可能性を示していた。今回得られた知見はペプチドや樹状細胞を用いて肝癌に特異的なCTLを誘導することによって肝癌の免疫治療が可能であることを示唆するとともに、こうした免疫治療は肝癌の発生早期、もしくは既存の肝癌治療を行った後に再発を予防する目的で行うことが適当であることを予見するものであった。 現在、今回の研究で同定したエピトープをもつペプチドとHLA-A24トランスジェニックマウスを用いて、免疫治療の効果と安全性を検討しており、一部のペプチドに関しては金沢大学医の倫理委員会における承認の下、肝癌患者における免疫治療の臨床試験を開始している。
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