我々は、肝障害モデルラットの肝臓リボソームから1Mの塩で抽出されるribosome salt wash (RSW)画分においてアルブミンmRNAと選択的に相互作用するRNA結合蛋白が存在することを見い出した。さらに本結合に関与するアルブミンmRNAシス配列について検討したところ、翻訳領域5'末端のピリミジン塩基に富む領域がRNA結合蛋白の認識配列である可能性を見い出した。認識配列の特徴ならびにRNA-蛋白質複合体の分子量から、本結合蛋白の候補分子としてPolypyrimidine tract-binding protein (PTB)の可能性が考えられた。抗PTBモノクローナル抗体を付加したゲルシフトアッセイの結果、アルブミンmRNAと相互作用していた蛋白質はPTBであることが明らかとなった。一方、ウサギ網状赤血球ライセートから免疫沈降法を用いてPTBを減じさせることで、in vitro翻訳系におけるアルブミン合成が選択的に増大した。すなわち障害肝では、アルブミンmRNAへのPTBの結合が増大することで、遺伝子転写後段階におけるアルブミンmRNA翻訳抑制機構が作用している可能性が示唆された。 PTBは、C型肝炎ウイルス(HCV) RNA 5'非翻訳領域に存在するinternal ribosome entry site (IRES)に結合し活性化することで、翻訳開始反応に重要な役割を担っている可能性が示唆されている。HCV感染時には、PTBのRNA結合能の増大が、ウイルスRNAの翻訳活性化を引き起こし、且つ、アルブミンmRNAの翻訳抑制に作用している可能性が考えられた。現在、細胞レベルでアルブミン合成に及ぼすPTBの影響を検討するとともに、本調節機構がヒトにも保存されていることを確認する目的で、ヒト肝癌由来培養細胞を用いたRNAiによるPTBノックダウンを計画中である。
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