潰瘍性大腸炎は慢性炎症を母地とした大腸癌(colitic cancer)発生のリスクファクターであり、本邦においても患者数の増加、内科的治療の進歩による長期経過観察例の増加に伴ってcolitic cancerは今後増加してくるものと予想される。しかしcolitic cancerの発癌機序についてはいまだ解明されていない。今回の研究は、潰瘍性大腸炎の炎症から発癌への関与が考えられる1-8Uに着目し、1-8Uの機能と発現誘導の分子生物学的メカニズムを解析することにより慢性大腸炎症における炎症から発癌への機序を明らかにし、その慢性炎症を母地とした発癌の早期診断や治療といった臨床応用の可能性を検討することを目的とする。前年度からの研究で、我々はヒトゲノムのcDNAライブラリーより発現調節領域を含む1-8Uの全遺伝子をゲノミッククローニングした。得られたクローンが十分な長さのプロモーター領域を含んでいなかったため5'-RACE法により上流領域遺伝子を伸展させた。転写因子結合予測解析プログラムによりプロモーター領域に既知の転写因子結合エレメントの有無、特にインターフェロンシグナル伝達に関連したエレメントの有無につき検討し、1-8U遺伝子発現にかかわるシグナル伝達経路を解明している。また、1-8Uを大腸癌細胞株HT29-18N2、CaCo2に遺伝子導入し、強制発現させた安定細胞株を樹立し、その増殖形態および機能の解析により、1-8U固有の機能を解明した。今後の研究により、iFABPプロモーターを用いて1-8Uを腸管上皮に強制発現するトランスジェニックマウスを作成し、これをTCRαノックアウトマウスなどの慢性大腸炎モデルマウスとかけあわせることにより大腸上皮の慢性炎症および癌化における1-8Uの機能を明らかとする予定である。
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