研究概要 |
種々の血管成長因子や造血因子受容体からの刺激はPI3Kを活性化し、PI3KはPIP2をPIP3に変換することで、PKB/Aktを活性化して細胞の増殖・アポトーシス抵抗性に働く。癌抑制遺伝子PTENは主にPIP3を基質とするホスファターゼで、PI3Kのシグナル経路を負に制御する。PTENは、後天性の多くの悪性腫瘍で高頻度に変異が見られ、先天性なPTENの変異はCowden病などの多発性の過誤腫を伴い高頻度に癌を発症する疾患を発症することが知られている。これまでPTEN完全欠損マウスは胎生早期に致死であるため、血液・血管内皮細胞の発生・分化における機能解析は困難であった。そこで我々はPTEN floxマウスを作製しTie2-Creトランスジェニックマウスと交配することによって、ヘマンジオブラストレベルでPTENを欠損させ、PTENヘテロ変異マウスおよびPTENホモ変異マウスの表現型を解析した。PTENヘテロ変異マウスにVEGF,Ang-1などの血管成長因子を含むマトリゲルを移植したところ、顕著に血管新生能が亢進していた。また腫瘍細胞をヘテロ変異マウスに移植したところ、腫瘍血管の新生や、腫瘍増殖能が亢進していた。これらよりCowden病などのPTENのヘテロ変異した個体では、発ガンに関与するだけでなく血管新生能を亢進させ腫瘍のさらなる進展に寄与していると考えられた。ホモ変異マウスの血管は血管平滑筋細胞/壁細胞の集積が減弱し、原始血管叢のみであることから、血管のリモデリング障害があることがわかった。このために血管は脆弱で、大血管からの出血・漏出がみられ、マウスは胎生11日までに全例死亡した。これらより、PTENは血管形成に必須な分子であることを明らかにした。また、これらPTEN変異マウスの表現形は部分的にPI3Kγ依存性であることも明らかにした。
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