研究概要 |
我々は、予備的検討において、大動脈弓部に一過性に発生する高度渦血流の存在が、これまで原因不明といわれてきた脳塞栓症の独立した発症規定要因である可能性をつきとめた。平成15年度科学研究費補助金の交付内定後、157例の急性脳塞栓症例に対して、経食道造影超音波法が実施された。我々は、経静脈投与にて肺毛細血管床を容易に通過し動脈系・左心系の染影を可能にした超音波造影剤レボビストを用いて、大動脈の血流動態を視覚的に評価した。すると、cryptogenic strokeと病型診断された36例中20例(56%)において、拡張末期から収縮早期にかけほぼ血管内を占めるような巨大な逆行性渦血流が確認された。この現象はcardioembolic strokeの34%、atherothrombotic strokeの44%、健常コントロール群の8%にしか認められなかった。さらに我々は、高度渦血流を認めた69例中同意の得られた32例に対しワーファリン投与(INR2.0-3.0)を開始し、発症3週間後のフォローアップ時に28例(88%)の高度渦血流の消失を確認した。高度渦血流群は渦血流のない群に比べ、大動脈弓部の血管径や内中膜複合体厚が有意に亢進していた。と同時に、慢性期に渦血流が消失する例はそうでない例に比べ(慢性期の)全血粘調度や血漿中のフィブリンモノマーが低い傾向にあった。大動脈弓部に(脳梗塞急性期に)発生する高度渦血流は、大血管の硬さや後負荷といった生理的因子だけでなく、血液粘度や凝固線溶機能の影響もうけ、両者が複雑に作用しあった結果生じるものであることが推測された。 造影時の大動脈弓部内腔(プラーク近傍)における超音波後方散乱信号値の周期性変動量は、高度渦血流群が軽度渦血流群に比し有意に高値であった(22.5±2.2vs.15.4±1.7dB,p<0.001)。我々が発見した渦血流(大動脈弓部血流動態異常)は、超音波後方散乱信号指標を用いて定量評価も可能であることが始めて明らかになった。以上の結果は2003年9月に行なわれた日本心臓病学会(東京)と11月に行なわれたAmerican Heart Association(Orland)において口答発表された。
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