マウスES細胞から心筋細胞を分化誘導する試みとして、ミオシン軽鎖(MLC-2v)蛋白のプロモーターの下流に蛍光蛋白物質Venusを挿入したベクターをES細胞に導入し、心筋に分化した細胞のみをFACSを用いて選択的に回収する試みを行った。しかしソーティングの工程における細胞へのダメージが予想以上に大きく、本手法を用いて分化した心筋細胞のみを十分量回収するという点に関して、満足の行く結果は得られなかった。また、ES細胞をIV型コラーゲンコーティングディッシュ上で培養した後Flk-1陽性細胞を回収するという試みに関しても、同様にソーティング時の細胞へのダメージが大きく十分な結果が得られなかった。現在はES細胞由来の心筋細胞は分化効率が低いこと、ソーティングの際のダメージがあることなどから細胞供給源として利用するためにはまだ様々な工夫が必要と考えている。他方、心筋シートの作成手法に関して、東京女子医科大学で開発された特殊な温度感応性培養皿を用いる手法唯一であった。しかし同培養皿は入手経路が限られているため仮に理想的な心筋組織移植片を作成することができたとしても広く一般に普及するには時間がかかると考えられた。そこで一般的に入手が可能な材料を用いて細胞シートを作成する手法を試みた。通常の培養皿の表面にフィブリンを薄くコーティングしその上で通常と同じ方法で心筋細胞を培養したところ、コンフルエントになった心筋細胞を膜状に回収することに成功した。こうして作成された心筋シートは温度感応性培養皿によって作成された心筋シートと同様に同期して収縮する性質を持ち、また重層化することも可能である事を確認した。引き続き本手法を用いて再生心筋細胞から再生心筋シートを作成することが可能かを検討する予定である。
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