心筋細胞の早期マーカーであるNkx2.5遺伝子座にGFPをノックインしたマウスES細胞株に対して我々の作成したポリAトラップレトロウイルスベクターを用いて遺伝子を破壊した。分化誘導後GFPを発現しない細胞クローン、すなわち心筋細胞への分化効率が減少するクローンを選別した。このレトロウイルスベクターのLTRにはloxP配列を挿入しているので、Cre recombinaseを発現させることで、挿入されたレトロウイルス遺伝子を除去した後にGFPの発現が再上昇するクローンをさらに選別した。その後、薬剤耐性遺伝子とポリA配列から作成したプライマーを用いて3'RACE法を行うことにより、挿入変異を受けた遺伝子を同定した。現在48個の遺伝子について、その上流、下流の遺伝子を含めて詳細な検討を続けている。そのうちの1つであるtryptophan hydroxylase 1(TPH1)においては、ノックアクトマウスにおいて拡張型心筋症様の心筋病変が生じることが報告されている。しかしながら、そのような病変を呈しないノックアウトマウスの系統もあり、神経系で発現の認められるTPH2が代償的な役割を果たしている可能性もある。現在、後者のノックアウトマウスの分与を受け、TPH1の役割について検討を始めた。 一方、マウスES細胞で胚葉体形成後6日目にヒストン脱アセチル化酵素阻害薬トリコスタチンAで刺激すると、心筋細胞分化効率は約4%から8%へと有意に増加した。さらに上記で得られた遺伝子の過剰発現とトリコスタチンAの刺激で心筋細胞分化効率が上がるかどうかについても検討中である。 また、白色脂肪細胞から分離されるstromal vascular fractionには間葉系の幹細胞が含まれる。この幹細胞からの血管系への分化効率についても上記の実験で得られた遺伝子をもとに検討している。
|