研究課題
Mycobacterium avium complex (MAC)は、従来日和見感染菌であると考えられてきたが、近年全身・肺局所に特に基礎疾患を持たない健常者に発症する肺MAC症が増加しており、注目すべきはその多くが中高年の女性であることである。我々は先に、このような肺MAC症の発症に閉経後の急速なエストロゲン濃度の低下が関連しているとの仮説のもと、マウス肺MAC感染モデルを用いた実験を行い、その結果、卵巣摘除により有意に肺内MAC生菌数が増加することを証明した。そこで、ヒトにおいてもエストロゲンが肺MAC症の発症に関与しているかどうかにつき今回検討を行った。女性肺MAC症患者及び対照として女性肺結核患者において、血中エストラジオール濃度を測定した。肺MAC症患者では、平均16.0pg/ml、肺結核患者では平均74.0pg/mlと、肺MAC症患者において血中濃度が低い傾向がみられた。このタイプの肺MAC症では、発症に、菌側の因子よりも宿主側の因子が強く関与していることが推測される。そこで、肺MAC症患者から分離されたMAC菌株について、IS1245をターゲットとしたRFLP分析を行った。すると、中高年女性の基礎疾患を持たないタイプでは、様々なRFLPパターンによるMACが感染していたのに対し、肺気腫等の基礎疾患を持つタイプでは、特定のRFLPパターンのMACが多くを占めていたことが判明し、特定の強毒菌による感染が疑われた。すなわち、中高年女性に多い基礎疾患を持たないタイプの肺MAC症では、その発症に菌側よりも宿主側の要因が大きく関与しており、その原因としてエストロゲンの関与が示唆された。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (1件)
結核 Vol.80, No.2(in press)