糖尿病状態においては、Na-K ATPaseの活性の低下が、各種組織で観察されており、糖尿病状態における臓器機能障害の原因として注目されている。また高血糖状態は、活性酸素種(ROS)の増加をさせ、様々な組織において細胞障害をきたし、糖尿病合併症の進展に関与する。近年、膵β細胞においても、糖尿病状態における高濃度グルコース曝露によるNa-K ATPaseの活性の低下、ROSの発生による膵β細胞の機能障害、細胞量の減少が報告されている。しかし、これらの現象とインスリン分泌障害の重要な要因である細胞内代謝障害の関連は不明であった。申請者は、膵β細胞におけるNa-K ATPase活性抑制によるインスリン分泌抑制効果の機序を検討し、Na-K ATPaseの特異的な阻害薬であるouabainは、なんらかの細胞内シグナル伝達を介してROSを発生させ、ミトコンドリアにおけるATP産生障害をきたし、インスリン分泌を抑制することをみいだした。現在、Na-K ATPaseの活性抑制からROS産生にいたる細胞内シグナル伝達の詳細を検討している。スクリーニングとして、ouabainは高濃度グルコース存在下で、ATP含量を低下させるが、細胞内シグナル伝達にかかわっていれば、その阻害剤を用いると、ATP含量の低下が阻害されるはずであり、EGF受容体阻害薬、Src阻害薬、PI3キナーゼ阻害薬、MAPキナーゼ阻害薬などを用い細胞内シグナル伝達の候補となる分子の阻害を試みその同定につとめている。さらにこのような阻害薬がouabainによるROSの産生を阻害するかどうかについても検討している。ROS産生の生理的リガンドの候補としてのlysophsophatidyl cholineがインスリン分泌を抑制し、ROSスカベンジャーでその分泌が回復することも確認しており、その機序についても検討中である。
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