c-mybは多分化能を有する成体型造血機能の発生において重要な機能をはたしており、その遺伝子破壊マウスは胎生12日前後に貧血により死亡する。そこで、このc-mybの成体型造血における機能を解析するために、テトラサイクリンによるc-myb(p75)遺伝子発現誘導可能なES細胞株をc-mybノックアウトES細胞から樹立した(c-mybTet/KO)。このc-mybTet/KOは、c-mybの発現により血液細胞を発生するが、その血球成分には異常が観られた。顆粒球やマクロファージは正常に発生するが、赤血球への分化はCD71^<high>Ter119^-の段階で停止していた。野生型ES細胞では、CD71highTer119^-からCD71^<high>Ter119^+の段階においてc-mybの発現は大きく減少していた。しかし、c-mybTet/KOは、c-mybの強制発現によりCD71^<high>Ter119^+の段階でのc-mybが上昇し、GATA2の発現上昇を誘導していた。また、赤血球の分化に必須なGATA1は変化していなかった。このc-mybTet/KOからはB細胞(CD19^+B220^+)が発生しない。CD43^+B220^+細胞は僅かに存在するが、CD127の発現は観察されなかった。この結果から、リンパ球へのコミットメントが阻害されていると考えられた。c-mybには先に用いたp75とともにp89の分子もアイソフォームとして存在する。このp89c-mybはp75とは異なった機能を有していると報告されている。さらにp89は造血機能を有する中胚葉や血管内皮細胞にp75と共に発現していることが確認できている。そこで、先のリンパ球へのコミットメントにp89が重要な機能を果たしているとの仮説からp89をc-myb遺伝子破壊ES細胞に発現させたES細胞を樹立し、リンパ球分化への影響を中心に解析を現在行っている。
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