本研究は、行動・発達上の問題を呈する患者のセロトニン受容体遺伝子多型などを解析することにより、分子生物学に基づいた病態の解析と治療法を確立しようとするものである。 1.サンプル症例の選択 神戸大学医学部附属病院小児科では平成2年より発達行動外来を開設し、小児期の心身症、神経症や行動・発達上の問題などの患者の治療にあたり、これまでに、児童虐待など不適切な養育環境による小児期のストレス負荷が影響した自傷行為を繰り返す患者などを多数治療してきた。今年度は、まず、本研究の対象となる適切なサンプル症例を選択するために、実際に平成13年1月から12月までの1年間に上記の専門外来を初診した患者101例について、患者背景・主訴・診断・転帰などを検討した。その結果については日本小児科学会雑誌(第108巻/第1号)に報告したが、発達障害の診断を満たした症例が受診患者の44.8%を占め、また、小児心身症の診断を満たした症例は同様に62.4%を占めた。発達障害の診断を満たした学齢期以上の症例の約4割が小児心身症を合併していた。この検討結果を踏まえ、神戸大学医学倫理委員会へ「行動・発達上の問題を呈する小児の遺伝子多型に関する研究」としての実験計画書を提出し審査を受け、平成15年6月10日付けにて承認を受けた。 2.サンプル採取・同意 本研究の対象となる患者のDNAあるいはRNAの解析にあたっては、神戸大学医学部附属病院小児科において同意を得たのちに行った。 3.遺伝子の抽出・解析 採取された血液中のリンパ球よりDNAならびにRNAを抽出し、PCRあるいはRT-PCR法にて増幅し、増幅断片中の多型の塩基配列を決定あるいは制限酵素法などにより解析している。現在はセロトニントランスポーター遺伝子、セロトニン2A受容体遺伝子などを解析中であるが、今後、セロトニン受容体遺伝子mRNA編集パターンについても検討していく。
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