研究概要 |
小児の注意欠陥/多動性障害(AD/HD)症状改善薬であるMethylphenidate(MPH)、Clonidine(CLO)、Milnacipran(MNP)の作用をNorepinephrine(NE)神経の中核である青斑核(LC)ニューロンにおいて検討した。幼若ラット(Wistar,♂,生後7〜21日)脳スライス標本(210-230μm)のLCニューロンからwhole cell patch clamp記録下において、MPH(>30μM)、CLO(>0.1μM)、MNP(>30μM)をそれぞれ灌流投与すると、膜コンダクタンスの上昇を伴う外向き電流を発生させた。これらの外向き電流はYohimbine(α_2 antagonist)でほぼ抑制され、NE誘起外向き電流のイオン機序と同一であった。シナプス後電流(EPSCs, IPSCs)に対してCLO(0.01-1μM)はIPSCsを消失させたが、低濃度(0.3-3μM)MPH、MNPでは膜電位、膜電流に対する明らかな作用はないにもかかわらず、濃度依存的にIPSCsの振幅とタイムコースを著明に増大させた。しかし高濃度(>30μM)MPH、MNPでは、IPSCsを抑制した。MPH、CLOはEPSCsには影響がなく、高濃度MNPではEPSCsを抑制する傾向があった。MPH(100μM)を長時間(>15min)灌流投与すると、外向き電流を発生させるが灌流中でも徐々に減衰し、そのときIPSCsは観察できなかった。しかしMNP(100μM)長時間投与では外向き電流は発生しつづけ、IPSCsも抑制傾向にはあるが観察できた。成熟ラットにおいても同様の結果が得られた。以上の結果から、MPH、CLO、MNPはそれぞれ異なる作用をもつことが示唆された。高濃度MPHにはNE放出を促進させる作用が示唆されたが、低濃度MPH、MNPではLCニューロンにおけるre-uptakeシステムを阻害することによってNE濃度を増加させ、IPSCsの振幅とタイムコースを増大させることで抑制性のシグナル伝達を高める働きがあると考えられる。従ってこのような低濃度での作用がAD/HD症状を改善する作用幾序である可能性が示唆された。
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