本研究では周生期医療における重要な問題である低酸素虚血性脳症の病態をより詳細に解朋することを目的として、ヒト新生児と脳発育が近似している新生仔豚を用いて新生児仮死に類似した遅発性脳エネルギー代謝不全モデルを作成し、時間分解分光システム(TRS)による低酸素虚血前後の脳循環代謝状態の検討を行った。今年度の研究成果を以下に示す。 (対象および方法) 生後24時間以内の新生仔豚8例を用いて、75分間の低酸素虚血負荷を施行、蘇生24時間後まで全身管理を継続した。TRSを用いた平均光路長の測定を、31P-MRSによる脳内エネルギー状態の測定および多チャンネル近赤外線分光装置を用いた脳血流測定と併せて施行した。TRSは投光受光部間距離を30mmとし、プローブを左頭頂部矢状縫合に平行して装着した。 (結果および考察) 全例に同様の低酸素虚血負荷を行うも、蘇生24時間後の脳内エネルギー代謝状態(PCr/Pi)が比較的保たれる群(4例)とPCr/Piがほぼ0となる重症群(4例)とに分かれた。それら2群におけるDifferential path length factor(DPF平均光路長/3cm):800nmは前者で16.01±0.85、15.89±1.00、15.57±1.04、15.87±1.03、17.04±0.82(負荷前、蘇生後3、6、18、24時間値)であったのに対し、後者では15.84±1.14、19.61±3.66、19.36±3.39、18.89±0.87、18.82±0.27であった。負荷前値において2群間に有意差は認めないが、重症群において蘇生後24時間までDPFが有意に高値を示した。以上により、低酸素虚血負荷後PCr/Piが極度に低下するような重症群においては平均光路長が有意に長くなることが判明し、TRSが低酸素虚血時の脳機能モニターとして有用であることが示唆された。
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