本年度研究では、低酸素虚血性脳症に対する低体温療法の脳循環代謝に及ぼす影響を検討することを目的として、新生仔豚を用いて作成した遅発性脳エネルギー代謝不全モデルに全身冷却法を行い、時間分解分光システム(TRS)による測定を行った。 対象は生後24時間以内の新生仔豚17例(非低体温群(N)8例、低体温群(H)9例)。全例に75分間の低酸素虚血負荷を施行、H群には蘇生30分より24時間後まで全身冷却を行い、鼻咽頭温を35±0.3℃に維持した。TRSを用いた脳内Hb酸素飽和度(HbO_2)、脳内Hb量(T-Hb)及び平均光路長(Differential path length factor(DPF))の測定を、31P-MRSによる脳内エネルギー状態(PCr/Pi)の測定と併せて蘇生後24時間まで施行した。TRSのプローブ間距離は30mmとして頭頂部に装着し、解析は頭部水分量を60%と仮定して行った。 全例に同様の負荷を行ったところ、蘇生24時間後のPCr/Piが保たれた症例は9例(N群4例、H群5例)であった。3例は負荷中死亡し、残る8例(N群4例、H群4例)は蘇生24時間後のPCr/Piがほぼ0となり、低体温に伴う変化は認めなかった。PCr/Piが保たれた9例において、H群はN群に比べ蘇生24時間後のPCr/Pi、HbO_2、T-Hbが有意に高かった。さらに、N群のDPF : 800nm(Mean±SD)が16.01±0.85、17.04±0.82(負荷前、蘇生後24時間値)であるのに対してH群は15.71±0.59、14.16±1.04であり、H群において蘇生24時間後のDPFが有意に低値を示し、全身冷却による脳浮腫の軽減の可能性が考えられた。以上より、低酸素虚血性脳症に対する全身冷却による脳保護作用ならびに低体温療法中の脳機能モニターとしてのTRSの有用性が示唆された。
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