本研究は多形紅斑の発症原因の一つと考えられる単純ヘルペスウイルスがどのような機序で多形紅斑の病変を形成するか、また単純ヘルペスウイルスが関連した多形紅斑に関するこれまでの報告のほとんどが海外からのものであり、本邦でも同様の結果が得られるものかを検証することが主眼であった。平成15年6月から同意書取得の下で皮膚生検を行い病理組織学的に診断の確定した多形紅斑(薬剤性を除く)の症例が2例あったが、いずれも臨床的に単純ヘルペスの関与が認められず、病変部組織のPCRでもウイルスDNAを検出できなかった。現在過去5年間の多形紅斑(薬剤性を除く)の病理組織標本を検査中であるが、検査を行った6例では単純ヘルペスウイルスの遺伝子は検出されず、カルテの記載を見るかぎりでは臨床的にも単純ヘルペスの関与を示唆する所見は記録されていなかった。海外の報告では多形紅斑の20%から50%、あるいはほとんどの症例が単純ヘルペスに関連していると報告されているが、少なくとも我々のこれまでの検査結果から本邦においては単純ヘルペスウイルスが関与した多形紅斑は頻度が少ないのではないかと推測された。単純ヘルペスウイルスが関与した多形紅斑はウイルス抗原を標的とする免疫反応が病変を形成するという明解な仮説があり、またすでにこれに関する新しい報告が次々となされていて、多形紅斑のような自己免疫疾患に類似した炎症性皮膚疾患の発症機序を解析するモデルとして非常に有用であると考えられている。本邦での多形紅斑の原因はいまだ明確にされていないため、さらに検証を継続し、単純ヘルペスウイルスの関与した多形紅斑が果たしてどれ程の割合で存在するかを明らかにしたい。また多形紅斑の原因検索と並行して本研究のもう一つのテーマである環状皮疹の形成機序に関しても研究を進める予定である。
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