本年度の補助金によって真皮におけるマイクロファイブリルの機能がさらに明らかになった。光老化においてはヒアルロン酸結合性のプロテオグリカンであるバーシカンに注目した。まずバーシカンのアミノ末端に存在するヒアルロン酸結合部位を動物細胞の発現系を用いて作成した。この蛋白(rVN)をクロマトグラフィーで精製し、超遠心とリガンドブロット法で結合能を確認した。さらにこの蛋白に対するポリクローナル抗体を作成した。得られた抗体はヒアルロン結合ドメインの高次構造を特異的に認識し、かつヒアルロン酸結合能と相関を示した。この抗体で免疫染色をすると予想通りマイクロファイブリルの分布と一致した。さらに皮膚のグアニヂン抽出したものをこの抗体で染色すると、いくらかの断片が認められた。またゲルろ過で分けたか画分をピオチン化したヒアルロンとこの抗体で染色するとほぼ同一のパターンを示した。このことからつまり成人皮膚ではバーシカンが主要なヒアルロン産結合分子であること、またそのヒアルロン酸結合部位が断片となっているもののヒアルロン酸結合能が保たれていることが示された。光老化皮膚において発現が報告されているマトリックスメタロエラスターゼでrVNを処理すると分解し、それに並行してヒアルロン酸結合能力を消失した。また日光弾力線維症の変性弾性線維では染色されず、光老化によってバーシカンのヒアルロン酸結合能が消失することが示唆された。 線維化については強力な増殖因子であるTGF-betaと共有結合するlatent TGF-beta binding protein-1(LTBP-1)に注目した。動物細胞を用いてLTBP-1の組み換えたんぱく質を引き続き作成した。これを用いてさらにファイブリリンへの結合部位を特定のドメインに決定した。さらにこのファイブリリン結合部位の近傍を認識するエピトープを持つ抗体を見出した。皮膚組織をTGF-betaの活性化因子と考えられるプラスミンで処理するアッセイによって、真皮マイクロファイブリルからTGF-beta結合ドメインを含むLTBP-1断片が遊離されることが示された。さらにLTBP-1とマイクロファイブリルの結合は非共有結合であること、またLTBP-1のアミノ末端は多量体を形成していることが示された。これらより、真皮マイクロファイブリルはTGF-betaを不活性の状態で貯蔵するだけでなく、必要に応じて活性化できる仕組みをもつことが示された。さらにこのことはタイトスキンマウスやヒト強皮症に見られるマイクロファイブリルの不安定性によってTGF-betaの細胞外での制御機構が変化する可能性を示唆する。
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