研究概要 |
毛髪ケラチン付随タンパク(KAPs)遺伝子群の発現に関わる転写調節因子の同定と、発現調節機構を解明することを目的として下記の研究を実施した。 1.プロモーター領域の塩基配列の解析を行ない、一部のKAP遺伝子ファミリーに共通して保存されている塩基配列を見つけた。これらの配列は毛包内での部位特異的発現に関わる転写調節因子の結合配列である可能性がある。 2.毛細胞に優位に発現している転写因子(Foxn1, Hairless, Lef-1)のcDNAをクローニングし、HeLa細胞に導入・強制発現させることで各KAP遺伝子の発現が誘導されるか否かを調べたところ、Foxn1の強制発現によりII型ケラチン中間径線維(KIF)遺伝子であるKRTHB3,KRTHB5遺伝子およびHGT (high-glycine-tyrosine)型のKAP遺伝子であるKRTAP7-1遺伝子の発現が顕著に誘導された。また、Lef-1の強制発現細胞では、KRTHA5,KRTAP13-1遺伝子の弱い発現増加が認められた。 3.毛包は外胚葉(角化細胞)・中胚葉(毛乳頭細胞)の相互作用により形成される。正常ヒト毛乳頭細胞と重層培養することによって正常ヒト角化細胞の毛細胞への分化すなわちKIF、KAP遺伝子など毛髪特異的遺伝子の発現誘導を試みた。一部の毛髪構成タンパク遺伝子(Ha1,Hb1,K16,K6hf,KRTAP19-1遺伝子など)は毛乳頭細胞による誘導を行っていないヒト正常角化細胞においても発現が確認された。一方、毛乳頭細胞による誘導を行うことで、皮膚で発現しているII型のサイトケラチン遺伝子(KRT1,KRT2,KRT5遺伝子)の発現が抑制された。しかし、誘導を行ったにも関わらず細胞分化の最終段階で発現するとされるKAP/KIF遺伝子群の発現が認められないことは、細胞培養系では組織で起こっているような細胞分化が再現できていないためであると考えられた。
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