P糖蛋白は腸管、肝臓、腎臓および血液脳関門に存在し、汲み出しポンプとして作用する薬物輸送トランスポーターである。近年、試験管内試験により、非定型抗精神病薬の中でリスペリドンがP糖蛋白の基質であることが報告された。そこで、申請者はリスペリドンの定常状態薬物動態に対するP糖蛋白をコードするMDR-1遺伝子多型の影響を検討した。さらに、薬物代謝酵素CYP2D6の遺伝子多型や年齢の影響も検討した。 対象は、本研究に対し、文書での同意の得られた統合失調症患者85例で、その平均(範囲)の年齢と体重は45(18-75)才、59(37-105)kgであった。全例がリスペリドン6mg/dayによる単剤治療を受けていた。少なくとも治療開始2週間経過後、夜の服薬の12時間後に採血を行った。血漿リスペリドンおよび9-水酸化リスペリドン濃度をHPLC/MS/MSにて測定した。PCR-RFLP法を用いMDR-1(C3435T、G2677T/A)およびCYP2D6を同定した。なお、本研究は弘前大学医学部倫理委員会の承認を受けている。 リスペリドン血漿濃度はC3435T遺伝子多型においてもG2677T/A遺伝子多型においても差はなかった。9-水酸化リスペリドン濃度にも差はなかった。C3435TとG2627T/Aのハプロタイプ別に解析しても差はなかった。一方、CYP2D6遺伝子や年齢を含めた多変量解析を用いた場合、リスペリドン濃度はCYP2D6遺伝子多型に相関し(p<0.001)、9-水酸化リスペリドン濃度は年齢に相関した(p<0.05)。 以上より、リスペリドンおよび9-水酸化リスペリドンの定常状態血漿濃度にCYP2D6活性と年齢が依存し、MDR-1遺伝子多型は影響が少ないことが示唆された。 今後、薬物応答性におけるMDR-1遺伝子多型の影響を検討する予定である。
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