脳血流SPECTを用いた人物誤認妄想の神経基盤の検討に先立って、アルツハイマー病(AD)患者における、妄想および妄想内容別の頻度を集計し、その危険因子を検討した。対象は1996年1月から2000年5月までに愛媛大学医学部附属病院精神科神経科外来を受診した連続334名から抽出され、NINCDS/ADRDA probable ADの基準を満たし、頭部MRIにより他の脳病変を否定され、AD発症以前に精神疾患の既往が無く、評価時に抗精神病薬や抗痴呆薬の投与を受けていないものとした。その結果、112名(平近年齢73.8歳、男性41名、女性71名)が対象となり、全員に対し、Neuropsychiatric Inventory、Mini-Mental State Examinationなどの各種神経心理検査を実施した。何らかの妄想は53名(47.3%)に認められた。妄想を有している患者においては、物盗られ妄想が40名(75.5%)、が最も多く、次に人物誤認妄想の「誰か居る」妄想が16名(30.2%)で多かった。その他、迫害妄想が10名(18.9%)、「自分の家ではない」妄想が5名(9.4%)、「テレビの内容を現実の事のように言う」妄想が4名(7.5%)、嫉妬妄想が6名(11.3%)などであった。何らかの妄想を有している比率は、女性の方が統計学的に有意に多かった。年齢、教育歴、罹病期間は妄想の有無との関係性を見いだせなかった。上記の内容は、国際専門誌に発表されている(Delusions of Japanese patients with- Alzheimer's disease. Int J Geriatr Psychiatry 2003;18:527-532.)。この検討は、人物誤認妄想の神経基盤を解析するための重要な基礎的データとなり、今後SPECTを用いた画像的検討を行っていく予定である。
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