屠殺直後のブタの眼球を用い、近赤外領域の反射光スペクトル分析を実施した。角膜の外側から光を照射し、角膜の外側で反射光を検出測定すると、各構成部分を切離していない全眼球は1080nm付近に反射ピーク(反射率5%以下)を示し、1400nm以上の波長の光は温度23℃と18℃でほぼ反射しなかった。眼球をバルプロ酸含有保存液(バルプロ酸濃度は0.19重量%)で含浸し反射光スペクトルを測定すると、全眼球は1080nm付近に反射ピーク(反射率68%)を示し、1400〜1700nmの波長の光を概ね40%前後反射した。眼球を解剖し各部分の光の反射率を測定すると、角膜、水晶体、硝子体、網膜(+色素上皮)はいずれもバルプロ酸含浸により近赤外領域の反射率が上昇したが、とりわけ網膜(+色素上皮)は、1400〜1700nmの反射率の著しい上昇(バルプロ酸非含有の場合は反射率がほぼゼロ、バルプロ酸含有の場合は概ね35〜38%)を示した。眼球の反射光スペクトルを用いてバルプロ酸濃度を測定する場合、バルプロ酸水溶液の透過ピーク(1340nm)より長波長側で、安定した結果が得られる事が確認された。バルプロ酸による反射率上昇のメカニズムは不明であり、今後は、摘出眼球でなく生体内でもこの現象が見られるか検討する必要がある。また、バルプロ酸以外の物質(P糖蛋白の器質となるクロルプロマジン、ベラパミル、シクロスポリンなど)の影響下で全眼球が近赤外領域の反射率上昇を示すか否かを確認する必要がある。
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