本研究においてはsensorimotor gating機能に異常を有するNZWマウスを材料として、(1)sensorimotor gating機能を司る遺伝子を同定する。(2)寄与する遺伝子多型の部位を特定する。(3)原因となる神経活動の変化をきたす脳の領域を特定することを目的とした。 sensorimotor gating機構は年齢が進むとともに段階的に発達していくが、私はsensorimotor gatingを理論的に反映するprepulse inhibition testを用いたQTL解析を行い、マウス染色体上の高感受性領域を同定した。次にその領域に存在する既知の遺伝子の内、脳に発現している遺伝子について、正常なsensorimotor gatingを示すNZBマウスと低値を示すNZWマウス間でmRNAの発現量を比較したところ、NZWマウスにおいて最も顕著に発現量低下が認められたのはセロトニン合成酵素であるtryptophan hydroxylase 1(TPH1)だった。更にTPH1遺伝子の塩基配列をマウスの複数の系統で調べたところ、プロモーターと3'非翻訳領域にNZWマウスでは遺伝子多型が存在することがわかった。ルシフェラーゼレポーター法で調べた結果、両領域での多型はTPH1発現量低値に寄与していた。興味深いことに酵素学的解析からTPH1はTPH2より酵素活性が高く、それは成体ではなく、発達段階において顕著であった。実際、NZWマウス脳幹raphe核で認められたセロトニン量低値は生後3週齢に限定されていて、成体では正常量だった。NZWマウスと同様の多型はSWRマウスでも認められたが、SWRマウスにおいても生後3週齢のセロトニン量低値とprepulse inhibition低値がみられた。 次にTPHの阻害剤である、PCPAを用いてsensorimotor gatingの発達にセロトニンが要求されるcritical period同定を試みた結果、生後21日から24日の間であるとわかった。薬理学的、細胞生物学的解析から生後21日から24日の間の適量のセロトニン要求性というのは5HT_<1A>受容体とactin polymerizationを介していることを見いだした。 本研究により、正常なsensorimotor gatingを獲得するためには発達段階での正常なセロトニン量保持が必須であることがわかった。本研究の成果は学術雑誌投稿、2005年2月21日現在審査中である。
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