多くの在日日系ブラジル人の滞日が長期化するにともない、彼らの日本の社会・文化への適応は進みつつあるが、一方で児童・生徒における不登校やいじめ、非行などの問題は潜在化し、調査し難くなりつつある。そのため、在日日系ブラジル人の児童・生徒における様々な問題を重層的に捉える目的で、学校教育現場に止まらず、市町村役場、国際交流協会、保健所、精神科医療機関、電話相談(いのちの電話など)、カトリック教会、NPOなどに対する援助状況の予備的聞き取り調査を行った。その結果、公的な機関では、市町村役場の国際協力課などが縮小・消失傾向にあり渉外課が相談窓口になっていることや、国際交流協会が現在設置されていない地域が多いこと、福祉領域からの介入が乏しいことなどが判明し、民間レベルの援助活動が前面に出ていることが明らかになった。また、学校教育現場では、人的資源不足から在日外国人児童・生徒の問題を十分に把握し切れないことが少なくないことも確認された。そこで、本研究の調査の舞台を学校教育現場から、日系ブラジル人の日本でのコミュニティの中核になっている教会などに変更し、在日日系ブラジル人の児童・生徒における不登校・いじめ・非行などの実態を正確に把握するための半聴き取り方式の質問紙調査を行うべく、多文化間精神医学会在日外国人支援委員会および外務省領事移住部の協力を得て質問紙の改良を行った。この作業を通して、多文化民族で構成されている諸外国では、それぞれの民族コミュニティの枠組みの中で援助が提供されていることが明らかになった。
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