双極性障害モデルマウス確立のため、ミトコンドリアDNA(mtDNA)変異が脳内特異的に蓄積するトランスジェニックマウスにおける行動学的検討を行なった。オープンフィールドテストを用いた数分間にわたる行動量観察に加え、輪回し行動テストで長期間の行動量変動を観察した。これらのマウスは行動量低下を示し、さらに野生型マウスでは観察されない行動リズム変化を示した。 また、このマウスにおけるシナプス伝達、および細胞内Ca^<2+>制御機能を解明することを目的とし、5-8週令のマウス海馬スライス標本を作製し、細胞内Ca^<2+>イメージングと電気生理学的記録を同時に行なう系を確立した。ホールセルパッチクランプ法によりパッチ電極から直接、細胞体に電気的な脱分極パルスを加え、逆行性に活動電位を生じさせることで、細胞内Ca^<2+>上昇を引き起こした。Ca^<2+>感受性色素をパッチ電極から導入し、細胞体だけでなく、樹状突起におけるCa^<2+>動態も同時に記録した。海馬CA1錐体細胞で長期シナプス可塑性を引き起こすことが知られている発火頻度で連続的に活動電位を生じさせたところ、mtDNA変異蓄積マウスでは野生型に比べ、Ca^<2+>反応に違いがあった。また、小胞体、ミトコンドリアの相互作用を観察するため、アゴニスト刺激によるIP_3産生を介したCa^<2+>動態をイメージングする技術を習得した。G蛋白質結合型受容体アゴニスト潅流下に30Hz・20発の活動電位を生じさせると、野生型では1.脱分極による電位依存性Ca^<2+>チャネルからのCa^<2+>流入、2.アゴニスト刺激によるIP_3産生、の相乗効果により、小胞体からの強いCa^<2+>放出を観察できた。mtDNA変異蓄積マウスではこのCa^<2+>放出量が異なる傾向にあった。これらの結果からmtDNA変異蓄積マウスにおいてmtDNA変異を起因とした神経細胞のCa^<2+>代謝変化が示唆された。
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