双極性障害モデルマウス確立のため作製された脳内mtDNA変異蓄積マウスにおける細胞内Ca^<2+>制御機能を調べた。前年度までに海馬スライス標本を用いてアゴニスト刺激によるIP_3産生を介したCa^<2+>動態を記録した。その結果、mtDNA変異蓄積マウスでは野生型マウスに比べCa^<2+>上昇がおこりにくい傾向があった。mtDNA変異蓄積のオルガネラレベルへの影響を直接的に探索するため、以下の実験系を確立した。mtDNA変異蓄積マウス前脳をホモジナイズし、ショ糖密度勾配法によりミトコンドリア分画を単離した。ミクロセル内にて既知濃度のCa^<2+>液を加え、ミトコンドリアによるCa^<2+>とりこみ能を観察した。ミトコンドリアは膜内外のプロトン濃度勾配を使って駆動するCa^<2+>ユニポーターにより、内膜側へCa^<2+>をとりこむことが知られている。また、そのときの膜電位差の消失に伴ってmPTP開口が引き起こされる。Ca^<2+>とりこみ速度、およびCa^<2+>液のくりかえし投与後に引き起こされるmPTP開口までの必要量を閾値量として測定した。その結果、ミトコンドリアDNAにコードされる蛋白質(Complex I)を含む一連の電子伝達系を動かす基質であるグルタミン酸を用いた場合にはmtDNA変異蓄積マウスで取り込み速度の亢進が観察された。一方、核遺伝子にコードされる蛋白質のみから構成されるComplex IIの基質となるコハク酸を用いて測定したところ、取り込み速度、およびmPTP開口の閾値は野生型と同様であった。なお、膜電位感受性色素JC-1で染色した結果からは変異マウスにおける膜電位低下は認められず、組織標本での活性染色像からも、特にComplex I活性低下は認められなかった。これらのことからmtDNA変異を起因とした神経細胞のCa^<2+>代謝変化は各ミトコンドリアにおけるCa^<2+>とりこみ能亢進によると示唆された。
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