研究概要 |
中枢神経系の分化・発達過程において,ポリシアル酸(PSA)が修飾されたPSA-NCAM分子は,分子間相互の接着や認識に重要な役割を果たしている.そこで,機能的な重要性が指摘され,PSA糖鎖の修飾に関わる二種類の糖転移酵素遺伝子(STX・PST遺伝子)に着目した.本研究では,糖鎖の機能に影響をもたらす遺伝子変異・多型が,統合失調症の病態に関与することを作業仮説として,患者・対象研究を実施した.以下5点が本年度の研究成果である. 1.STX遺伝子のプロモーター領域に存在する-1126T>C (P=0.014),-851T>C (P=0.007)に統合失調症群と有意な関連を認めた. 2.ハプロタイプ解析から,統合失調症群と対照群とでは,ハプロタイプ頻度に有意な差が認められた(P=0.026). 3.-1126T,-851T多型を含むハプロタイプT-G-T-G-C頻度は,対照群と比較して患者群で有意に高く(P=0.026),-1126C,-851Cを含むハプロタイプと比較して,有意に高い転写活性を示した(P<0.05). 4.-1126T>Cおよび-851T>C多型のリスクアレルを有する症例では,リスクアレルをもたない症例と比較して,妄想,概念の統合障害,幻覚による行動,誇大性,疎通性の障害に対する各因子のスコアが有意に低かった(P<0.05). 5.PST遺伝子の多型では,統合失調症との有意な関連が認められなかった. 以上,統合失調症のリスクファクターとして,STX遺伝子のプロモーター領域に存在する多型-1126T>C,-851T>Cを同定した.-1126T,-851T多型を含むハプロタイプは,エンハンサー活性の機能をもちPSA糖鎖の生理機能へ関与することが示唆された.
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