研究概要 |
本研究目的は,従来のニトロイミダゾール型低酸素細胞放射線増感剤にp53を"一過的かつ可逆的"に阻害する機能を付加することにより低酸素腫瘍細胞の放射線感受性を高めつつ,腫瘍組織周辺に存在する正常細胞の細胞死(副作用)を低減するバイファンクショナル低酸素細胞放射線増感剤の開発である.この目的達成のために,本年度は,分子軌道計算及びモデル構築実験の結果からp53阻害剤Pifithrin-αのメチルフェニル基を2-ニトロイミダゾール基に置換した分子TX-2004を,また,TX-2004のニトロ基位置異性体であるTX-2071及びTX-2072を分子設計・合成した.そこで,ヒト非小細胞肺癌由来H1299/wtp53 (野生型p53株)及びH1299/mp53Trp248(変異型p53株)を用いて,Pifithrin-α (10 μM)及びTX-2004 (10 μM)の存在又は非存在下で43℃,60 minの温熱処理を行い,増殖抑制とアポトーシス率を調べた.変異型p53株ではPifithrin-α及びTX-2004の有無に関わらず同程度の増殖抑制効果が見られたが,野生型p53株ではPifithrin-α及びTX-2004の存在下では,生存率がそれぞれ13%及び8%上昇した.また,apoptosis率はそれぞれ16%及び14%ずつ減少した.以上の結果より,Pifithrin-α及びTX-2004は温熱処理によるp53依存アポトーシスに対して防護効果を示すことが証明された.今後は,TX-2004及びそのニトロ基位置異性体であるTX-2071,TX-2072のin vitro放射線防護効果と新たな分子設計について検討していく予定である.
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