I.HDAC阻害剤の乳癌細胞増殖抑制効果 A.主たるHDAC阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)、suberanilohydroxamic acid(SAHA)の乳癌細胞増殖に与える影響をMCF7(p53 wild、Her2/neu低発現)、SKBR3(p53mutant、Her2/neu高発現)細胞を用いて検討した。 (1)TSA、SAHA処理により、MCF7、SKBR3ともに濃度依存性に増殖抑制を認めた。 (2)MCF7では細胞周期停止(G1、G2 arrest)、SKBR3では著明なアポトーシスが観察された。 (3)MCF7ではTSA、SAHA処理によりp53蛋白のアセチル化が誘導された。CDKinhibitorであるp21の発現は誘導されたが、p27発現に変化は認めなかった。p53活性化による細胞周期の停止が考えられた。 (4)Her2/neu高発現のSKBR3ではTSA、SAHA処理によりHer2/neu、phospho-Her2の発現はわずかに減少した。その下流のAkt、MAPKのリン酸化は著明に抑制されていた。Her2/neu〜Akt、MAPK経路の抑制によるアポトーシス誘導がおこっていると考えられた。 以上の結果より、特にSKBR3を用いた解析結果から、HDAC阻害剤の作用機序の中でのHer2/neu〜Akt、MAPKの経路の関与が重要であることが示唆され、この経路についての解析を特に重点的に進めている。 II.HDAC阻害剤と抗癌剤との併用効果 MCF7細胞に対するCDDPの効果がTSAと併用することにより増強されることが示された。現在乳癌の治療に頻繁に用いられている抗癌剤(アントラサイクリン系、タキサン系、5-FU系抗癌剤)について、HDAC阻害剤との併用により細胞増殖抑制効果増強の認められるかどうか検討中である。
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