RNA interference(RNAi)を利用した膵臓癌遺伝子治療の開発にあたり、まず、膵臓癌で高頻度に変異が認められるK-ras遺伝子を治療標的遺伝子の候補とした。当教室で樹立したヒト膵臓癌細胞株YAPCと腹膜高転移株であるYAPC-PDは、K-ras遺伝子のコドン12に変異を認めた。ついでK-ras遺伝子中の翻訳領域を標的とする2種類のsiRNAを設計した。K-ras遺伝子変異を持つヒト膵臓癌細胞株YAPC-PD、AsPC-1、MIAPaCa-2にRNAiFect Reagentを用いてsiRNAを導入した。遺伝子発現抑制効果をRT-PCR法で比較したが、対照として用いたsiRNAが遺伝子発現抑制効果を示したのに対し、K-ras遺伝子を標的とするsiRNAは抑制効果を示さなかった。今回設計したsiRNAは標的とした配列が適切でなかったため、抑制効果を示さなかったと考えられる。これらの実験に並行して、新規治療標的遺伝子の探索のため、教室で樹立したヒト膵臓癌細胞株YAPCと、高腹膜転移株YAPCの遺伝子発現をcDNAマイクロアレイ法で比較した。その結果、33種類の遺伝子が2.5倍以上の発現変動を示した。この中から治療標的遺伝子を選択するため、real-time RT-PCR法、免疫染色法などを用いた膵臓癌臨床検体での遺伝子発現の解析が必要と考えられた。
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