研究概要 |
当科において、これまで報告してきた食道癌の分子生物学的予後規定因子による悪性度評価について、2004年6月の日本食道学会パネルディスカッションで発表を行った。この時に、食道癌において有用な予後規定因子であったいくつかの候補遺伝子について胃癌においても同様の解析を行った。 興味深いことに、食道癌患者の単変量解析においては有意な予後因子であったBag-1が、胃癌に於いては予後因子と成り得ないばかりか、どの臨床病理学的因子とも統計学的に相関を示さなかった。(PO-211藤原ほか;胃癌におけるBAG-1発現の意義 日本胃癌学会総会 2004年3月米子) このことは癌の分子生物学的な予後規定因子が臓器特異性をもっており、同じ上部消化管とはいっても食道と胃ではその発現の意義が全く異なるものであることが示された。 2004年4月の日本外科学会、9月の日本癌学会において、食道癌患者ではPTENの発現が単変量解析で予後規定因子であり癌の深達度と密接な関係があることを報告した。また、プロモーター領域にmethylationは認められるものの発現規定因子とは成り得なかった。(武野ほか;食道扁平上皮癌におけるPTEN発現の意義 日本外科学会2004年4月大阪、日本癌学会2004年9月福岡)現在、胃癌に於いてPTENのみならず、E-cadherin、HSP70といった遺伝子発現についても同様の解析を進めているところである。 しかしながら、その進行状況としては食道癌ほどには期待通りに各々の遺伝子が予後因子とは成り得ていないのが現状である。これは、胃癌が大きくdiffuse typeとintestinal typeに分けられるように、その発生に違いがあるばかりでなく、性質も全く異なるものが混在することが影響していると考えている。 日本における癌の1,2位を争う胃癌において、TNM分類に匹敵する分子生物学的因子による予後予測が可能となるよう現在鋭意解析中であり、将来的にはTissue array等のprofilingへの応用も期待される。
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