研究概要 |
DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子の異常は散発性大腸癌,胃癌などの消化器癌や卵巣癌など多くの癌で報告されている.MMR遺伝子の1つであるhMLH1の散発性大腸癌におけるタンパク発現異常の機構について調べたところ,異常を引き起こす既知の概念では説明不可能な結果を得た.そこで転写制御の詳細を知る必要があった.本研究では,これまでにhMLH1遺伝子転写制御因子の候補として見出したp29を中心として転写因子の遺伝子異常と消化器癌との関係を明らかにし,p29介在性hMLH1遺伝子転写制御機構を解明することを目的とする.本年度は,p29遺伝子の発癌への関与を調べること,並びにhMLH1転写調節活性やコンセンサス配列などp29タンパクの機能の解明,p29と複合体を形成する他の因子の同定を計画した. 癌化過程におけるp29の関与を知るために,消化器癌由来細胞株32株及び腫瘍組織94例を対象にPCR-SSCP解析を行い,p29遺伝子のイントロンを含むエクソン領域の異常を検索した.しかしながら,コード領域に異常は見い出せず,p29の発癌への関与は明らかとならなかった.次に,p29タンパクのDNA結合能を調べるためにゲルシフト解析を行った.recombinant p29単独ではバンドのシフトは認められなかったが,hMLH1発現ヒト細胞株SW620の核抽出物存在下ではp29濃度依存的にシフトバンドが増強した.さらに,p29のhMLH1転写調節に対する影響を調べるためにレポーター遺伝子解析を行った.hMLH1プロモーター領域を組み込んだプラスミドからのレポーターの発現は,p29発現プラスミドの存在下でわずかながら増強した.ゲルシフト解析及びレポーター遺伝子解析の結果から,p29は直接DNAに結合しないものの転写促進活性を持つことが示唆された.引き続き,p29と相互作用しDNAに直接結合する他の転写調節因子の検索と同定を行っている.
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