980結節の中で369結節(37.7%)が多段階発癌と診断された。多段階発癌の頻度を腫瘍径別に解析すると、1cm以下が101結節中75結節(74%)、1-2cmが224結節中141結節(63%)と腫瘍が大きくなればなるほど低い傾向にあった。腫瘍径が増大するほど多段階発癌の頻度は減少することから、腫瘍がより増大すると、やがては内部の進行癌が辺縁部に存在する早期肝細胞癌の領域を圧排し、早期肝細胞癌の領域が縮小し、最終的には全てが進行癌に置き換わることが予想された。早期肝細胞癌、結節内結節型肝細胞癌および辺縁に早期肝細胞癌の領域を持つ肝細胞癌の腫瘍径の中間値は、それぞれ2.2cm(範囲:0.4-4.0cm)、3.0cm(1.0-5.0cm)および5.5cm(0.4-9.5cm)であった。664症例の中で177症例(26.7%)が多中心性発癌と診断され、多中心性に生じた結節の数は最多で9結節であった。HBs抗原陽性群、HCV抗体陽性群、HBs抗原+HCV抗体陽性群、HBs抗原+HCV抗体陰性で肝障害を伴う群、正常肝群の多段階発癌の頻度は、それぞれ19.1%、46.0%、37.9%、23.9%、0%であった。同様に多中心性発癌の頻度は、それぞれ16.5%、34.1%、31.5%、12.8%、3.1%であった。多段階的発癌と多中心性発癌の頻度は共に、HBs抗原陽性群よりHCV抗体陽性群の方が高かった(p<0.0001、p=0.046)。HBs抗原+HCV抗体陽性群は、HCV抗体陽性群と同様の傾向が認められ、一方HBs抗原+HCV抗体陰性で肝障害を伴う群は、HBs抗原陽性群と同様の傾向を認めた。正常肝群では、ターナー症候群の1症例を除いて、多中心性発癌を認めなかった。それぞれの群の背景肝に関しての進行度具合は、慢性肝炎、肝硬変の頻度に差がなく、多中心性発癌の頻度の違いは、背景肝の進行度の違いによるものではないと考えた。
|