我々は現在までにSCIDマウスに肺癌組織を移植することで、SCIDマウス内で肺癌組織の微小環境を再現し、移植肺癌組織内の腫瘍内浸潤B細胞からマウス血清中に腫瘍特異的ヒト型IgG抗体が産生されることを確認してきた。さらにSEREX法に応用することで、この腫瘍内浸潤B細胞より産生された抗体の認識する肺癌腫瘍抗原の単離、同定に成功している。SEREX法では癌患者血清をプローベとして使用するために腫瘍抗原以外に多くの自己抗原が同定されてしまい、抗原の腫瘍特異性の証明に非常に労力がかかる欠点がある。そこで、我々は腫瘍内浸潤B細胞より産生される腫瘍特異性の高い抗体を用いて腫瘍抗原を同定することで、腫瘍局所での液性免疫応答に関与した腫瘍抗原のみ同定でき、従来のSEREX法の感度と特異性を高める工夫につながることを報告した。さらに固形癌で症例を増やし、同定した腫瘍抗原に対する交差反応性を確認することで、腫瘍特異的抗体療法の有効なターゲットとしての証明が可能である。 我々は肺大細胞癌症例(A904)にて22種類の抗原遺伝子を単離・同定に成功している。うち13種類は既知の抗原遺伝子であり、9種類は未知の抗原遺伝子(6種類は機能不明、3種類はデータベース上登録されていない)であった。13種類の既知抗原遺伝子のなかには腫瘍抗原として報告されているP53やkinectinが含まれていた。22種類すべての塩基配列解析を行った結果、うち4種類に膜貫通領域を持っていること可能性が推測された。現在、この4種類の抗原遺伝子について、発現様式(同一症例における正常肺・肺癌組織、正常組織での発現分布)、他肺癌患者血清との交差反応を確認している最中である。
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