研究概要 |
【目的・背景】これまで、齧歯類を中心とした脳虚血実験動物モデルにより有効性が確認された脳梗塞治療薬が、臨床試験では、その有用性が確認できていない。この原因の1つには齧歯類とヒト脳での解剖学的差異が関与していると考えられる。脳虚血における白質障害の重要性の観点より、よりヒト脳に近いミニブタ局所脳虚血モデルの開発し、病理組織学的所見に基づいた虚血障害部位の検出法と梗塞巣体積の算出法を提示する。神経幹細胞移植による応用治療法の開発を目指す。【方法】ミニブタ(体重14〜24kg)を使用。全身麻酔下に右前頭側頭開頭を行い、顕微鏡直視下に右中大脳動脈電気凝固し切離した:MCAO群(n=5)。対照群として、開頭のみの(Sham)群:(n=5),虚血24時問後、全身麻酔下にパラホルムアルデヒドにより灌流固定を行った。病理組織学的にH&E染色により灰白質(神経細胞体)障害部位の同定を、免疫染色(APP : amyroid precussor protein染色)により軸索損傷部位の同定を行った。脳梗塞体積の定量を目的に定位的冠状断面を16スライス選定してミニブタ脳ラインダイアグラムを作成した。病理組織学的結果をもとにラインダイアグラム上に梗塞障害部位をプロットし梗塞面積から梗塞体積を算出した。【結果・考察】Sham群では、脳梗塞は認めなかった。MCAO群では全例で右大脳基底核と大脳皮質に広範囲の脳梗塞巣を認めた。脳梗塞体積は17.9±2.3(mean±SD)cm3でありミニブタ全脳体積の約25%を占めた。病理組織学的には、ミニブタ脳は齧歯類に比し白質の占める割合が大きいため、H&E染色のみでは虚血部位を同定することは難しく、免疫染色(APP抗体)による軸索損傷の同定が必須であった.【結論】本モデルの特徴として、(1)個体間での脳梗塞体積のばらつきは少なく再現性と信頼性が高いこと、(2)侵襲が少ないことから臨床応用前の脳梗塞治療薬の評価に有用性の高いモデルであると期待される。(3)本モデルは大型動物であるため、自家細胞移植実験モデルとして応用可能であることが確認できた。現在、ミニブタ脳梗塞脳の脳室壁より神経幹細胞を採取し、神経細胞塊を脳梗塞巣へ移植する研究が進行中である。
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