脳損傷後に産生されるthrombinは炎症を介した二次的脳損傷とグリアや間葉系細胞の増殖による過度の瘢痕化を引き起こし、神経再生を阻害する環境をもたらす。本研究では、ラット損傷脳モデル用い、アンチトロンビンIII(AT III)の効果を炎症反応とグリア反応に着目し組織学的に検討した。【方法】雄性SDラットの右前頭頭頂の大脳皮質に切創損傷を加え、脳損傷部位にゼラチンを留置し、対照群として生理食塩水(対照群、n=20)、治療群としてAT III 500U/kg/day (治療群、n=20)を腹腔内圧ポンプにて持続的投与した。脳損傷作成1、3、5、7日後、ゼラチンと創縁における炎症反応とグリア反応をHE染色ならびにmonocytes/macrophages (Mo/MΦ)、GFAP、vimentinよる免疫化学染色し、組織学的に比較検討を行った。【結果】治療群は対照群に比較して、損傷後1、3日目における多核白血球と3、5、7日目におけるMo/MΦ陽性細胞を有意に抑制した(p<0.05)。また、GFAP陽性アストロサイトの増殖は認めなかったが、3、5、7日目におけるvimentin陽性アストロサイトの増殖を有意に抑制した(p<0.05)。以上の結果からAT III脳損傷部位近傍における炎症性細胞の浸潤やvimentin陽性アネトロサイトを抑制することにより、脳損傷後の組織反応や修復過程で生じる瘢痕化を抑制する可能性が示唆された。
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