骨のリモデリング(成長・吸収)機構の解明は、画期的骨折の治療法や新しい人工材料の開発などに大きく寄与すると考えられる。骨の強化機構は、上述した骨のリモデリング機構解明に大きな手がかりとなり得る。本研究では骨の破壊機構について、以下の仮説を提案した。 仮説(1):準静的から高速負荷領域における皮質骨の強化機構は、内部に含まれるコラーゲン線維の切断機構により、ブリッジング(線維が延性破壊)、プルアウト(線維が脆性破壊)および線維強化無効の三段階に分けられる。これらが骨の破壊特性を支配し、破壊に至らない生理的状態においては、骨のマイクロクラックの集積が、局部的応力場を形成し、これがリモデリングを促進する。仮説(2):高ひずみ速度領域において、皮質骨の母相(ハイドロキシアパタイト)にマイクロクラック強化機構が働き、その結果破壊強度が増加する。 本計画では、これら仮説の検証を重点的に行った。その第一歩として、骨の主成分であるハイドロキシアパタイトとコラーゲン線維の力学的機能に意図的に変化(ダメージ)を与え、正常な骨の破壊特性と比較することで、これらが骨全体の破壊挙動にどのように関わっているか検討した。本計画では、骨にダメージを与える手法として、ホルムアルデヒド水溶液による化学固定法がこの種の実験に効果があると判断した。 主な成果は、ホルマリンは骨の主成分であるコラーゲン線維を硬化させることを初めて明らかにしたことである。ホルマリンはコラーゲン線維を比較的短期のうちに硬化させ、骨全体を脆性化させる。このことは皮質骨の曲げ弾性係数を増加させ、破壊じん性を減少させるという結果から裏づけられる。また、ホルマリン保存によりハイドロキシアパタイトは比較的短期間に骨から溶出し、曲げ強度の低下に貢献していることも今回の分析により初めて明らかとなった。
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