研究概要 |
プロスタシンは1994年にヒト精液から精製され、1995年ヒトcDNAがクローニングされたセリンプロテアーゼで、肺にも存在することが確認されている。最近、このセリンプロテアーゼが、上皮性Naチャネル(ENaC)を活性化する働きを持つことが示されてきたが、その生理学的機能に関しては、よくわかっていない。一方、肺胞上皮は肺胞中に水分が存在すると、これを能動的に間質にくみ出す機構があり、主として、II型肺胞上皮におけるENaCとNa, K ATPaseを介するNaイオンの動きに依存するとされている。ところが、低酸素状態や、急性肺傷害時には、この肺胞水分のクリアランスが低下し、肺水腫が生じやすい状態になる。われわれは、これらの病的状態では、プロスタシンの膜への発現が修飾され、ENaCの活性が低下しているのではないかと考えた。本研究の目的は、このプロスタシンの肺における発現・さまざまな病態による機能の修飾を明らかにすることを目的としている。本研究では、肺胞上皮におけるプロスタシンの発現について、ヒト肺組織、ヒト細胞株A549、及びラットprimary culture細胞を用いて調べた。ラットII型肺胞上皮のprimary cultureでは、プロスタシンmRNAは、培養開始当日から5日目まで、安定して発現していた。培養開始5日目の細胞を用いたwestern blotでも、細胞膜分画、細胞質分画ともに発現しており、培地にも分泌型と思われるバンドが確認された。またラットの肺組織を用いた免疫組織学的な検討でも、プロスタシンは、II型肺胞上皮で発現していることが確認された。一方、ヒトにおいては、正常肺組織、細胞株A549でのmRNAの発現が確認され、タンパクの発現に関しては、A549を用いたwestern blotでラットprimary culture細胞と類似した結果を得た。低酸素環境においては,肺におけるプロスタシンの発現は抑制され、アルドステロンが、高濃度で投与された場合に、肺では発現が抑制されることも明らかとなった。今後の展望としては、これらの発現調節がどのような病態に反映しているのかをより深く検討していく必要があると考えている。
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