研究代表者は心臓マイクロダイアリシス法を用いて心筋虚血時の交感神経異常興奮を抑制する手法について検討した。はじめに、冠動脈閉塞が交感神経に及ぼす影響を調べる目的で心臓マイクロダイアリシス法をウサギ心筋に適応し、虚血・非虚血部位での透析液ノルエピネフリン濃度応答を心臓交感神経終末からのノルエピネフリン放出応答の指標として記録した。その結果、冠動脈閉塞早期より透析液ノルエピネフリン濃度が急峻に上昇することが観察された。この冠動脈閉塞時の透析液ノルエピネフリン濃度上昇が各種麻酔薬および低体温によって抑制可能かどうかについて調べた。方法としては心臓マイクロダイアリシス法を用い、麻酔薬投与による冠動脈閉塞時の心筋間質ノルエピネフリン濃度応答の変調を調べ、上記コントロールと比較検討した。その結果、イソフルランは虚血中の透析液ノルエピネフリン濃度上昇を抑制する。一方、再灌流直後において放出された心筋間質ノルエピネフリンの再吸収機能の回復を阻害する。メカニズムとしてノルエピネフリン担体の抑制が示唆された。ケタミンはウワバインによる非開口性ノルエピネフリン放出に対してノルエピネフリン担体を介して抑制する。プロポフォールは冠動脈閉塞によるノルエピネフリン放出を抑制しない。さらに低体温下ネンブタール麻酔は虚血時のノルエピネフリン放出を抑制した。原因としてノルエピネフリン貯蔵小胞体への取り込み阻害が主因と考えられた。これらのデータをまとめると、心筋虚血による交感神経終末よりのノルエピネフリン過剰放出に対し、吸入麻酔薬(イソフルラン)と静脈麻酔薬(ケタミン)および低体温は抑制効果を示した。本研究は麻酔薬や低体温が虚血時の悪性不整脈や壊死拡大を抑止できる可能性を示唆しているものと考えられる。
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