昨年度において成功したラット初代培養大脳皮質細胞を用いたNMDAおよび一酸化窒素(NO)による細胞障害モデルを利用し、本年度は静脈麻酔薬ケタミン及びチオペンタールナトリウムを用いた細胞保護作用について研究を進めた。妊娠16日目のウイスターラットより胎児を取り出し、大脳皮質を採取し脳神経細胞を分離し初代培養を行った。その後、通常のインキュベーターを用いて14日間培養を行った。NMDA及びNOドナー暴露直前にケタミン、チオペンタールナトリウムを様々な濃度にて単独投与、もしくは同時投与を行った。その結果、NMDA暴露群においてはケタミンの単独投与で、臨床使用濃度に比して低濃度投与群では神経保護作用が認められなかったが高濃度投与群において神経細胞生存率が50%上昇し、統計学上有為な脳神経細胞保護作用が認められた。その一方で、NOドナー暴露群ではケタミンによる有為な神経細胞の生存率の上昇は認められず、神経保護作用は無いという結論に達した。この点に関してはケタミンの神経保護作用が非競合的なNMDA拮抗作用によるという事を証明した物として認識されうる。これらの研究結果は日本麻酔学会第51回学術集会(名古屋)にて発表した。一方、チオペンタールナトリウム投与群においては、NMDA及びNOドナー暴露群に対してそれぞれ神経細胞生存率の20%上昇が認められた。この点に関してはチオペンタールナトリウムの神経保護の作用機序としてフリーラジカルスカベンジャーとしての役割が考えられる。以上の結果は平成17年3月19日に開催される第9回日本神経麻酔・集中治療研究会(長崎)にて発表を行う。来年度は引き続き、作用機序の異なる両静脈麻酔薬を混合投与し、NMDA、NOドナー暴露による神経保護作用がどのような形態で現れるかを調べる予定である。
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