現在まで疼痛患者10例、非疼痛患者5例にて実際に脳脊髄液を採取しNO濃度の測定を行った。今回のわれわれの結果においては、個人による測定値のばらつきが非常に大きく疼痛患者と非疼痛患者間において有意差は得られていない。脳脊髄液中のNO濃度に関しては他の文献等では十数ミリマイクロモル程度までの測定結果報告が散見されているが今回のわれわれの結果においては、百マイクログラム以上と予測範囲を超えた検体結果も観察されており、著しい個人差が認められている。その要因が測定方法上の問題である可能性を除外するために、今後特に非疼痛患者の検体数を追加し再検討する必要があると考えられる。またわれわれの測定条件である、手術前の検査等の生体侵襲が存在する状態や手術前の過度の緊張下に置かれた状態自体がNO濃度に影響を及ぼしている可能性があり、その影響についても再検討する必要が生じた。更に髄液採取から測定までの保存方法や採取後測定までの期間が原因に関していないかを含めて再度検討する予定である。 われわれは疼痛刺激によって髄液内NO産生が亢進し非疼痛患者・疼痛患者間でのNO濃度に有意差が存在すると予測した。しかし今回の研究においては疼痛・非疼痛患者間においてNO濃度に有意差が認められないとの結果が得られた場合においても、急性疼痛存在下において脳脊髄液内のNO濃度は増加しない、との結論を導くことか出来るであろう。よって上記の患者因子や測定上の問題を解決しながら今後も更に研究を継続して行っていく予定である。
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