急性侵害受容性疼痛刺激に関しては急性疼痛群として下肢の骨折患者を中心に研究を行った。コントロール群(疼痛のない脊椎麻酔での予定手術患者)として産婦人科下腹部手術の患者を中心データを収集した。現在までの結果では両群の比較において髄液中一酸化窒素(NO)濃度に有意差は認められていない。 その理由については様々な原因が考えられる。 1 術前の鎮痛薬投与 急性疼痛群の術前安静時のVisual analogue scaleでは平均2/10と低くなっていることから、術前の鎮痛対策が比較的充分に行われていると考えられた。使用された鎮痛薬剤や投与方法も多種類であるためそれぞれの作用機序を個別に解明することは困難であるが、結果的にこれらの鎮痛薬による除痛が、疼痛刺激による脊髄レベルでのNO産生に影響を与えている可能性は大きい。 2 NO産生の経時的変化 急性侵害受容性疼痛患者は手術の原因となる授傷後経過期間は平均3日であったが、数時間から1週間の期間が経過しており個人差は大きい。疼痛発現からの時間経過で髄液中NO濃度の経時変化が起こっている可能性は充分に考えられる。 3 背景因子の差 患者背景に関して急性疼痛群での年齢が有意に高かったため高年齢化によるNO産性の低下があれば結果に影響を与えると考えられる。 今回のわれわれの研究では実験結果に影響を与える因子は多数あり、これらの要因をすべて除去し検討するために、対象患者を増加させ再度比較検討を行なっていく予定である。 慢性疼痛患者の髄液のNO測定に関しては帯状疱疹後神経痛の入院患者を対象に髄液採取を依頼したが、医療行為として必要ではない2回の髄液採取が必要なため2年間の研究でも同意が得られず対象患者数が非常に少ないため比較検討をするに至っていない現状である。 両研究系において今後も引き続き研究数を増やして検討を重ねていく予定である。
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