【目的】脳では、神経細胞の活動に伴い、細胞外カリウムイオン濃度が上昇する。この増大した細胞外カリウムイオンは、内向き整流性K+チャネル(KIR)を開口させ、脳血管を拡張させる。したがって、KIRは、代謝に伴う脳血流調節機構で重要な役割を果たすと考えられている。しかし、これらチャネルを介する脳微小血管拡張反応は明らかにされていない。また、高血圧症のような病態時に、KIRを介する脳微小血管の血流調節機構が修飾されるか否かは検討されていない。本研究は、脳微小血管拡張反応におけるKIRの役割を明らかにし、正常血圧および高血圧でのこのチャネルを介する拡張反応の違いを検討することを目的とした。【方法】顕微鏡、コンピュータを含む脳実質内微小血管観察システムを用い、高血圧(SHR)、正常血圧ラット(WKY)の脳スライス中の細動脈(内径5-10μm)を観察した。プロスタグランディンF2α(0.5μM)でスライス中の血管を収縮させ、KC1(5-15mM)による拡張反応を観察した。【結果】KC1(5-10mM)はSHRおよびWKYの脳スライス中の細動脈を濃度依存性に拡張させたが、SHRの脳細動脈での拡張反応はWKYでの反応より大きかった。KIR拮抗薬塩化バリウム(BaCl2、10μM)はこれらの拡張反応を完全に抑制した。【結論】正常血圧および高血圧動物いずれでも、KIRは脳微小動脈拡張反応に重要な役割を果たすことが明らかとなった。カリウムイオン濃度増大による、このチャネルを介する拡張反応は、高血圧症で著明であったが、その病態生理上の意義は明らかでない。
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