研究概要 |
疼痛の伝達機序とその制御にサブスタンスP(NK1)受容体などタキキニン受容体が関与していることは以前から知られていたが、最近、これらの遺伝子欠損マウスを用いた実験から、サブスタンスP受容体と疼痛制御の関係の詳細が明らかになってきた。吸入麻酔薬は臨床使用濃度で鎮痛効果を発揮するが、その鎮痛作用発現機序の具体的な理論は説明できていない。タキキニン受容体を介した疼痛制御に対する吸入麻酔薬の影響に興味が持たれているが、その機序は一切不明である。最近申請者らは吸入麻酔薬(イソフルラン、エンフルラン、エーテル、ハロセン)が臨床濃度でサブスタンスP受容体を抑制している事実をつきとめた[Anesth Analg.94(1):79-83,2002]。この事実はサブスタンスP受容体が麻酔薬の鎮痛作用に大きく関与していることを示す。一方、幅広く臨床使用されている静脈麻酔薬もサブスタンスP受容体に何らかの影響を及ぼしていると予想されるが、詳しい検討はまったくなされていない。 今年度、申請者らは静脈麻酔薬のサブスタンスP受容体に対する影響を検討するため、以下の実施した。 1)サブスタンス-P受容体に対する静脈麻酔薬の影響解析 アフリカツメガエル卵母細胞発現系は中枢神経に存在するG蛋白結合受容体に対する薬剤の作用を電気生理学的に検討する実験系として現在広く使用されている。アフリカツメガエル卵母細胞にサブスタンスP受容体のcRNAおよびcDNAを注入し、サブスタンスP誘発性カレントに対する静脈麻酔薬(ペントバルビタール、ケタミン、プロポフォール)、鎮痛薬(トラマドール)の影響をVoltage-Clump法を用いて電気生理学的に解析し、静脈麻酔薬(ペントバルビタール、ケタミン)はサブスタンスP受容体を抑制するが、静脈麻酔薬プロポフォールや鎮痛薬トラマドールには抑制作用がないことを証明した。 2)サブスタンスP受容体に影響を及ぼす静脈麻酔薬に対する細胞内燐酸化酵素(PKC)の関与の解析 現在まで、申請者らは吸入麻酔薬やアルコールが燐酸化酵素Protein Kinase C(PKC)を介してサブスタンスP受容体を抑制していることを明らかにしている。サブスタンスP受容体作用を持つ静脈麻酔薬が存在した場合、燐酸化酵素遮断薬(GF109203X)存在下でもその作用が発揮されるかどうか解析、スクリーニングした。その結果、静脈麻酔薬(ペントバルビタール、ケタミン)の抑制効果はPKCの影響を受けていないことが明らかとなった。 現在はサブスタンスP受容体に影響を及ぼす静脈麻酔薬の結合、作用部位の解明をするために、サブスタンスP受容体とセロトニン1A受容体間でキメラ受容体を構成し、さらに静脈麻酔薬が作用、結合するドメインのアミノ酸配列を他のアミノ酸へ置換して、静脈麻酔薬の特異作用部位を同定することを行っている。
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